ALSの病態や治療・療養について

監修;兵庫県立尼崎総合医療センター 脳神経内科

筋萎縮性側索硬化症とは

筋萎縮性側索硬化症(ASL)とは、随意筋を支配する上位(大脳皮質運動野)および下位(脊髄前角細胞、脳幹部運動諸核)の運動ニューロンが選択的に侵される進行性の神経変性疾患。その病態は未だ不明

ALSAmyotrophic Lateral Sclerosis

  • Amyotrophic(筋萎縮)
  • Lateral(側索)
  • Sclerosis(硬化)

筋萎縮性側索硬化症の概要

  • 遺伝性(家族性ALS)もあるが(5〜10%)。多くは孤発性(sporadicALS:sALS)。
  • 発症率は1.1〜2.5人/10万人/年。有病率は7〜11人/10万人と推測。
  • 30歳代から80歳代まで。発症ピークは70歳代。
  • リスク因子は年齢(60-70歳代)。性別(男性が女性に比し1.3から1.4倍多い)。

筋萎縮性側索硬化症の症状

上位運動ニューロン障害腱反射亢進、病的反射陽性、筋力低下など
下位運動ニューロン障害筋力低下、筋萎縮、線維束性攣縮、球麻痺症状(嚥下障害、構音障害、舌の萎縮)など
  • 病状の進行は典型的には一側から他側へ、解剖学的に連続性を持って水平性の進行をすることが多い。
  • 感覚障害、眼球運動障害、膀胱直腸障害、褥瘡は見られない(四大陰性徴候)
    ※末期では眼球運動障害を伴うことがある。
    ※長期療養では褥瘡を生じることがある。
  • ALS患者の約50%に人格変化、行動異常、言語障害、遂行機能障害など、前頭葉機能障害で特徴付けられる認知機能障害を認める。

筋萎縮性側索硬化症の経過・予後

  • 発症から死亡、または侵襲的換気が必要となるまで20~48ヶ月(※個人差が大きい)。
  • 日本での調査(1985年から10年間):発症から死亡まで40±33ヶ月(中央値31ヶ月)(気管切開、人工呼吸器装着を行った群では平均49±37ヶ月、行わなかった群では35±31ヶ月)。

予後不良因子:球麻痺発症、呼吸障害発症、高齢発症、栄養状態不良、認知機能低下、症状が早期から複数の領域に進展。

筋萎縮性側索硬化症の薬物治療

リルゾール1日量100mg。生存期間を平均3ヶ月延長。
筋力低下や呼吸障害の進行の程度は改善させない。
エダラボン従来急性期脳梗塞に用いられてきた抗酸化薬。軽症ALSにおいてALSFRS-Rスコアの有意な低下を認めたとされる。

筋萎縮性側索硬化症の対処療法・リハビリ

痛み(40〜73%)体位変換,薬物療法
不眠(60%)不安や頻回の吸引、呼吸苦などが誘因
うつ・不安心理的アプローチ、薬物療法(SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬、抗不安薬 ※呼吸抑制に注意)
呼吸苦酸素投与、体位の工夫、カフアシスト、去痰薬、理学療法。薬物療法(モルヒネや抗精神病薬、抗不安薬など)

リハビリテーション:機能が残存している筋に対し筋力強化訓練。呼吸効率の維持のため肩や肩甲骨、胸郭などの関節可動域訓練、ストレッチなど呼吸理学療法を行う。

※過度の運動負荷はoverwork weakness(過用性筋力低下)を生じる可能性。

筋萎縮性側索硬化症の栄養管理・胃瘻

  • 病初期には代謝が亢進、進行期には低下。
  • 必要カロリーの目安:経口摂取可能で四肢麻痺が軽度な時期で1500kcal、不完全麻痺期で1000kcal、完全四肢麻痺期で900Kcal、完全閉じ込め状態で800kcal
  • 胃瘻造設はpCO2<50mmHg、%FVC>50%が保たれている間に施行することが望ましい。

筋萎縮性側索硬化症の呼吸管理とその後の療養

非侵襲的陽圧換気(NPPV)

  • Non-invasive Positive Pressure Ventilation

気管切開下陽圧換気(TPPV)

  • Tracheotomy Positive Pressure Ventilation
NPPVによる呼吸補助開始の目安

二酸化炭素分圧45Torr以上、睡眠中SpO2<88%が5分以上、努力性肺活量(%FVC)<50%、または最大吸気圧60cmH2O以下

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