災害時に医療機器装着患者が自宅避難生活を送るために
兵庫県難病相談センター主催
第34回難病セミナー(令和3年度難病患者地域ケア研修会)
2021年11月12日(金)ダイジェスト版
監修;関西国際大学 保健医療学部看護学科 在宅看護学 今福恵子
災害時に避難できる人、できない人(人工呼吸器装着中の療養者さんは?)
災害時、在宅人工呼吸器を装着している療養者は?ALS患者の体験
2011年3月11日(金)東日本大震災震災当日
- 娘が急いで実家に帰るとヘルパーとボランティア学生が来てくれていた。人工呼吸器は外部バッテリーで5時間。19時までしかもたない。
- 近所の幼馴染(ヘルパー)がバッテリーを買いに、車屋に走ってくれた。
- 近所の人たちが、家からバッテリーを持ってきてくれた。
- 真っ暗になって、町内会の人たちが車のバッテリーを人工呼吸器につけてくれた。これで2日半以上は持つだろう・・。
- 余震のたびにろうそくの明かりを消して、懐中電灯で吸引する。しかし、吸引器のバッテリーも時間の問題。
- 夜勤ボランティアの学生も余震におびえている。
3月12日(土)震災2日目
- 電気も水もガスも回復せず 。夜遅くボランティアさんがおにぎりを作って持ってきてくれた。
- 吸引器の外部バッテリーが駄目になってきた。シリンジ(注射器)で吸い上げても全然だめ。
3月13日(日)震災3日目
- ヘルパー事業所の責任者から「みんな自分のことで精いっぱいで、他人のことなんか考えてくれないわよ!」「早く入れる病院があるなら病院へ行って!」と言われる。
- 幼馴染のヘルパーが、24時間が経過したバッテリーを車につなげてくれた。吸引器もコンセントから引っ張れるようにしてくれた。
- 訪問看護師が来て、入院はできない。できたら奇跡だ。イルリガートル(流動食のボトルとチューブ)で吸引する方法を伝授してくれた。
- 救急車は1時間後に到着「受け入れ病院はありますか?」
→レスパイトをしていないから、入院病院などない。- 「近くの病院(歩いて10分弱)まで行って交渉してきますよ!」と救急隊員。
- 病院の用意された部屋は手術室だった。体温は33度まで下がり、手術室は暑く37度。
〜災害時、手術室に搬送となった人工呼吸器装着患者さんは?〜
搬送先の病院手術室での出来事。介護者はベッドの隙間に布団を敷いて寝た。
震災5日目
- 「回路交換したい、フォーレ交換したい。」
- 看護師に相談しても、みんな物資が少なく、我慢してもらってるのでできないと言われる。
- 清拭は手伝ってもらえそうになかったので、ポットのお湯で顔を拭き、手を拭き、足を拭いた。
震災6日目
- 吸引でアラームが鳴っても、気にして覗く人はいなかった。呼吸器のチェックに来ても、意味が分かる人と分からない人がいる。
震災7日目
- 病院相談員から転院してほしいと。
- 他のALS患者さんは入院しないで、家族で不眠不休のアンビューして、この震災を乗り切ったそうだ。
- 他の患者さんも昼間はアンビュー、夜はバッテリーの人もいたらしいとケアマネに聞いた。
- 6人部屋へ移動
震災8日目
- 夜の病室は暖房が止まり、何度も目が覚める。母もそうだったみたい。缶コーヒーで手足を温めた。
- 看護師が浣腸で汚したシーツを、他の看護師に替えたいとお願いしたが、洗えないから、そのままでいてくださいと言われた。
震災9日目
- 4人で坂道を車いすを押して帰宅。ガソリンと灯油を探しまわった。水は3月25日まで断水。
ALS患者さんの体験から
- 震災時家族も外出すると普段徒歩15分でも震災時は数時間かかる。
- 呼吸器本体40分、外部バッテリーで7時間もつ予定。
- 吸引器は40分で止まった。
- 吸引器外部バッテリーなし(内部バッテリー30分~60分)。
- エアマットが停電でへこむと背中が痛い。クリップで止める。
- インバーターも充電弱く、家族が交代でアンビュー、体位交換、手動吸引。
日頃から外出している人は、病院にかけこまなかった。そうでない人はとにかく病院に行けばなんとかなると考えて、病院に行き、大変だった。
- 自宅避難
- 自宅のシェルター化
表1:災害時の時系列に応じた難病患者の課題と各関係機関の役割

平成28年度厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等克服研究事業 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業「難病患者の地域支援体制に関する研究」
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日ごろから助け合える関係づくり
- 患者自身が日ごろこころがけておくこと
あなたは複数の方法でコミュニケーションができますか - 家族の協力(日ごろから話し合う)
想定される最悪の事態を考慮して予想被害状況に応じた準備と、行動手順・役割を決めておきましょう - 地域住民との関係づくり
「もしも」の時に、地域の中に何かしら手伝っていただける方はいますか - 安否確認等声かけ
- 応援を呼ぶ
- 発電機の接続
- バッテリーの充電
- 水・ガソリン、食料の確保など
- 市町村の「避難行動要支援者名簿」制度の活用
災害時に支援を必要とする方は、地域の支援が受けやすくなるよう市町村の「避難行動要支援者名簿」制度を活用しましょう
東日本大震災時に患者さん方が近隣の方に協力いただいた例
<作成>宮城県、東北大学病院難病医療連携センター 2021年9月改定
人工呼吸器装着者に特徴的な災害の備え(例)

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予備電源確保


自分で作る災害時対応ハンドブック あなたの「命」守りましょう
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2021年 ポータブル人工呼吸器のバッテリー作動時間

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蓄電池(ポータブル電源)による電源確保

災害時における難病患者の状況と課題

https://www.mdcst.jp/wp-content/uploads/2020/01/mdcst_kanren_saigai2019.pdf
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どこに避難するのか?

https://www.mdcst.jp/wp-content/uploads/2020/01/mdcst_kanren_saigai2019.pdf
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災害時、危険がわかっていても避難しない覚悟を持つ療養者
災害についての思いや語り
- 「災害があっても自分を置いて逃げるように家族に言ってある」
- 「災害が来たらそれが自分の運命」
- 「災害が来たらその時はその時」
- 「もう十分生きた、これ以上はいい。何もしない」
- 「津波が来たら危ないことはわかっているが、死ぬ時はこの場所が良い」
専門職の対応
- 療養者のハザードマップ確認
- 津波危険地から引っ越した療養者もいる。
- 災害時医療従事者、福祉職が駆け付けられないことを事前に説明
- 契約書に記載している訪問看護ST
- 本人の自己決定と家族の思い
納得?意思尊重 - 意思の変更あり。語りを聴く。
足踏み吸引器・手動式吸引器体験会

自宅避難を勧める対象(患者家族の希望以外)


<作成>宮城県、東北大学病院難病医療連携センター 2021年9月改定
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在宅医との具体的な連携方法【東日本大震災の事例】
- 在宅医クリニックの院長やALSの会の医師が、難病患者の防災避難訓練を呼びかけた。
- 災害への関心や危機意識を行政、医師、自治会と共に高めておく。
- 難病についての理解や、疾患以外の生活の視点が必要。
- 難病患者の災害準備対策として、災害時における連絡方法等、日ごろから主治医や薬局と相談しておく。
⇒患者を含め反対が多かったが、患者家族や自治会、市を説得。(医師自身が災害時に被災者となり、駆付ける保証ができない)
(例)パーキンソン病薬を災害を見越して早めに処方してもらう。残薬管理を主治医や薬剤師と共に注意しておく。
難病患者の防災訓練(実例)について
目的 |
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日時 | 11月中旬、9時から11時半 |
場所 | ●●集会所 |
主催 | ●●ALSの会 |
参加機関 | 自治会、在宅支援サービス機関(訪問看護師、ホームヘルパー、ケアマネジャー等) |
協力 | 市保健所の保健予防課、市役所危機管理室、市消防署 |
訓練内容
9時~9時05分 | 開会 |
9時05分~9時50分 |
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9時50分~10時 | 休憩 |
10時~10時50分 | 【災害時要援護者を想定した避難模擬訓練】
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10時50分~11時 | 休憩 |
11時~11時25分 | 参加者の意見をまとめる(感想を発表) |
11時25分~30分 | 講評(医師、支援者) |
11時半 | 閉会 |
参加者以外町内会の人たち・近隣者も気になり様子を見にきた。療養者・家族の災害時の意識が高まった。支援者たちが災害時の安否確認等の意識や、連携が強化された。
人工呼吸器装着中の療養者の災害経過と搬送の目安(案)




電源の確保について
- 知人や親戚宅等の避難先で、電源確保はできるのか。避難前に確認。
- 自宅待機しながら、日中に医療機器の充電を依頼。依頼先の確保。
- 公共施設:市役所や区役所は1名のみの受け入れだった。要確認。
- 老健施設:ショートステイを定期的に活用して状態を知ってもらう。
- 自宅の発電機を試運転(ガソリン、ボンベ、ソーラー等)
- 呼吸器バッテリー以外の蓄電池。試運転。
- 自家用車からの充電。試運転。
- 発電機を借りる。(近所や知人に平時から依頼しておく)
暑さも危険
- 台風による停電でクーラー使えず。
- 熱中症の危険があり、病院に搬送。
避難入院について
- 事前避難について;台風等風水害で危険予測される場合の病院の受入れは、病院の体制により異なるので、事前に確認が必要。
- 事前避難を受けたケースもあるが、全員は受けられない。
- 人工呼吸器装着者だけを優先扱いできないのが現状。
- 日頃から、レスパイト入院をして、スタッフがケアに慣れているなど関係づくりが必要。
- 平時から災害時について相談し、依頼しておく。

《外出》
- 自信
- 皆に会えることを心の支えに
- 今ある自己の受けいれ
- 生活の潤い
- 存在を知ってもらえる
- 災害時の訓練(練習)になる
お願い
- 難病・人工呼吸器装着している療養者・家族は日々24時間365日介護の生活に追われています。
- 「日々1日無事に過ごせるだけで精いっぱい、災害のことなんてとても考えている暇がない」のが現実です。
- 災害の支援者としての思いが、相手にとっては追い込まれている気持ちになることもあります。
- 病気の理解、介護している方々の思いの共感
- あなたのことを心配している、という「アイ・メッセージ」を伝える。
- 日々の関係性、多職種連携、餅は餅屋に。
- 外出体験により電源から離れ、外で食事をとることで慣れておくこと。日常のケアに手動電源を取入れて体験してみること。予備電源や蓄電池、車のバッテリーを試してみておくこと(日ごろからの準備)。