下肢の閉塞性動脈硬化症に対するカテーテル治療

足先に血流を送る動脈が狭窄して、血流障害が生じた病気を閉塞性動脈硬化症や閉塞性末梢動脈疾患と呼びますが、その治療の一つとしてカテーテルを用いた動脈拡張術があります。カテーテルという医療用の細い筒を動脈内に挿入して、この筒からバルーンを挿入して狭窄を拡張したり、ステントという金属の網状の筒を狭窄部位に留置して狭くなった動脈の内腔を内側から押し広げます。

足先への血流は腹部大動脈から左右に分かれて腸骨動脈になり、太ももにある大腿動脈に続きます。膝の下になると通常は3本の膝下動脈(前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈)に分かれて、足先まで血流を届けます。狭窄・閉塞病変が上記のどの領域にあるのかで治療方針が異なります。ここでは兵庫県立尼崎総合医療センターでの下肢の閉塞性動脈硬化症に対するカテーテル治療の方針を記載します。

腹部大動脈から腸骨動脈領域の狭窄・閉塞

この部位はカテーテル治療が最も得意としている領域で、特にステント留置術の成績は良好です。他の治療として外科的に開腹して人工血管でバイパス手術を行う方法もありますが、カテーテル治療は体の負担が軽く、効果が高いため第一選択となります。

大腿動脈領域

この領域では動脈が太ももの筋肉内を走行するために、下肢の動きによって動脈が折れたり、ねじれたり、圧迫されるという特徴があります。そのためステントを留置した場合に上記のストレスがかかるため、腹部大動脈・腸骨動脈領域と比較してステント治療後の再発の頻度が高くなります。

そのため本領域ではバルーン拡張が治療の基本ですが、通常のバルーンでの拡張では再発が多いために再発予防の薬を塗布したバルーンを使用することが主流です。

しかしバルーンのみでは十分に拡張が得られないような場合には、ステント留置を必要とします。ステントにも再発予防の薬が塗布された薬剤溶出性ステントがあり、状況に応じて使い分けています。

大腿動脈領域

病変が短い場合にはステント留置も含めたカテーテル治療の成績は良好ですが、病変が長い場合には、再発して再治療が必要となる頻度が増えます。中には再治療を繰り返す必要のあることもあり、そのような病変には外科的に人工血管や下肢の静脈を用いたバイパス手術も考慮する必要があります。

血管内バイパス治療について



ステントグラフト

最近になり大腿動脈の狭窄治療用に開発された『ステントグラフト』が登場しました。ステントグラフトとはジグザグ状の金属スプリング骨格を人工血管に固定したもので、従来の金属ステントと異なり柔軟でしなやかです。このステントグラフトを狭窄した動脈に留置する治療は病変が長くなっても再発が少ないことが報告されており、外科的に切開して人工血管でバイパス手術をする治療と同等の成績が期待されています。この治療は動脈内にステントグラフトという特殊な人工血管でバイパスを作成するような治療ですので『血管内バイパス』とも呼ばれています。これは認定施設でのみ実施可能の治療で、当科は認定施設に選ばれており多数実施しております。

膝下領域

この領域では認可されたステントは存在せず、バルーン拡張がカテーテル治療の基本です。その結果として拡張が不十分であったり再発が多くなるため、この領域の治療は血流障害が原因で足の傷や潰瘍が治癒せず足切断の危機に直面した場合にのみ実施します。

ロータブレーターの医師主導型治験について

膝下領域の動脈狭窄では血管壁に石灰成分(カルシウム)が多量に蓄積して硬くなっているためバルーンのみでは十分に拡張できないことがあります。特に透析患者さんには、この傾向が強く治療に難渋することも稀ではありません。
心臓を栄養する冠動脈という動脈にカルシウムが蓄積してバルーンでは拡張できないような時にはロータブレーターというダイアモンドのドリルでカルシウムを削ります。この器具は欧米では足の動脈でも認可されていますが、本邦では冠動脈以外では認可されていません。
そのため本邦でもロータブレータが足の動脈狭窄にも認可されるように、当院も含めた国内10施設で医師主導型治験を開始しました。詳細は担当医にご確認ください。

ロータブレーター
ロータブレーター

ロータブレーターと駆動装置
ロータブレーターと駆動装置