肩・膝・関節鏡・スポーツ外来

肩・膝・関節鏡・スポーツ外来(担当:猪坂医師・小林医師)

様々な外科的手術において、身体の負担の少ない低侵襲の手術が近年求められています。その代表的なものが内視鏡を用いた手術です。整形外科の分野では関節内を内視鏡でみながら処置を行う関節鏡視下手術があります。以前は大きく関節内を切開して行われていた手術も手術器具および技術の進歩によって、小さな皮膚切開で手術が出来るようになりました。
関節鏡視下手術とは、各関節の周囲にわずか6~7mmの皮膚切開を数か所行い、この小さな出入り口(ポータル)から細いカメラや手術器具を関節内に入れて行う手術のことです。関節鏡視下手術では、皮膚を切る大きさが劇的に小さいばかりでなく、関節周囲の健常な筋肉なども傷つけることなく手術が行えるため、術後の痛みが少なく、機能の回復が早いことが分かっています。
当科では、最新の関節鏡手術器具・設備を整え、まだあまり一般的には行われていない肩関節の関節鏡視下手術を含めて、様々な関節の鏡視下手術を行っています。鏡視下手術には、肩関節・膝関節・その他の関節(足・股)の鏡視下手術や鏡視下手根管開放術などがあります。

肩関節外来:担当 猪坂医師

近年“肩が痛い”や“肩が挙がりにくい”と訴える方が多くいらっしゃいます。五十肩と言われ、症状に苦労されている方も多いと思います。その原因として肩を挙上する“腱板”と言う筋肉が損傷(腱板損傷)していることがあります。中高年の方々に多く認められます。軽いものは関節内に注射をしたり、理学療法(運動療法、物理療法)で軽快しますが、症状が改善しない場合には腱板を修復する手術が必要となります。以前は肩関節を大きく切開しての腱板の修復を行っておりましたが、現在は関節鏡による手術を行っております。
また関節鏡の導入により、様々な肩関節の病態がわかってきました。関節の中には“関節唇”というタコの吸盤のような組織や上腕関節靭帯という組織があり、関節の安定性に関与しています。これらの組織が何気ない日常生活の動作の中で損傷し、肩関節の痛みが出現します。ボールを投げたり、ベンチプレスを持ち上げる動作でも関節唇は損傷することがあります。3ヶ月以上疼痛が続く場合には、単なる肩関節の炎症ではなく、このような組織が損傷していることもあります。損傷の程度によっては、リハビリだけでは改善しない場合もあり、関節鏡視下の手術が必要になることもあります。 H29年には84症例の肩関節鏡視下手術を行いました。

治療対象疾患

腱板断裂

日常生活動作の中で損傷する場合もあれば、事故や怪我などで損傷する場合もあります。腱板が損傷すると肩のバランスがくずれて、肩の痛みと挙上障害を生じます。断裂には小さなものもあれば、非常に大きなものもあります。また、完全に断裂してしまう場合もあれば、部分的に断裂する場合もあります。保存的治療でも症状が改善しない場合には手術が必要になります。当院では鏡視下腱板修復術を行っております。
広範囲の腱板断裂で残っている残存腱板の筋萎縮が強い場合には、大腿部の筋膜を移植する鏡視下上方関節包再建術やリバース型人工肩関節置換術を行っております。

反復性肩関節脱臼

10代や20代の頃に肩が脱臼すると、その後簡単に何度も脱臼するようになってしまいます。このような状態を反復性肩関節脱臼といいます。リハビリを行えば、脱臼しないようになることはありません。このため、当院では鏡視下バンカート修復術を行っております。また何回も脱臼していくと、脱臼するたびに骨がなくなっていくことがあります。その場合には、骨移植をする必要があります。我々は鏡視下バンカート・ブリストゥ法を行っております。

肩関節唇損傷

ささいな怪我で肩に負担がかかり、関節唇が損傷することがあります。また、投球動作により関節唇が損傷することもあります。リハビリなどで症状が改善することもありますが、損傷した関節唇は治らないこともあります。症状が改善しない場合には、鏡視下肩関節唇修復術を行います。

肩関節拘縮

五十肩や腱板断裂などを放置すると、肩関節が動かなくなってきます。肩が動かなくなると、強い夜間痛が出たり、動きが悪くなるために日常生活動作に支障を来すこともあります。リハビリを行っても、症状が改善しない場合には、鏡視下肩関節授動術(全周性関節包切離)を行っております。

上腕骨頚部骨折

高齢になると骨粗鬆症になり骨折しやすくなります。高齢者の場合、転倒して肩を受傷すると、上腕骨頚部骨折を起こします。様々な骨折のパターンがあり、保存的に治療できるものもあれば、手術が必要になることもあります。手術は骨折のパターンにより、鏡視下骨接合術・観血的骨接合術(プレート固定・髄内釘)・人工骨頭置換術などを行っております。

肩鎖関節脱臼

肩を強打すると肩鎖関節が脱臼することがあります。脱臼の程度により、保存的治療で問題ないものもあれば、手術が必要な場合もあります。手術の場合には、当院では、鏡視下もしくは観血的肩鎖関節整復術を行っております。また、陳旧性の肩鎖関節脱臼の中に肩鎖関節障害がある場合には鏡視下鎖骨遠位端切除術なども行っております。

膝関節外来(担当:小林医師)

膝関節の痛みは日常生活やスポーツの中で、多くの方が経験されていると思います。膝関節は、大腿骨と脛骨の膝蓋骨で構成されており、4つの大きな靭帯で安定しています。また、関節内のクッションの役割である軟骨や半月板も存在します。これらの組織がスポーツや事故などの大きな外力によって損傷する場合もあれば、加齢性変化により徐々に損傷する場合もあります。様々な損傷の程度があり、症状も様々です。当科では診察を行い、必要な検査のもと、治療方針を患者さんと話しあって決めていきます。保存的治療でも症状が改善しない場合には、関節鏡を使用した手術治療を出来るだけ行うようにしています。

主な膝関節疾患

半月板損傷

半月板損傷には一度のきっかけで受傷する外傷性断裂と、大きなきっかけなく症状を自覚する変性断裂があります。症状は膝のひっかかり感や痛み等です。ひどい場合は膝を伸ばすことができなくなります。リハビリや抗炎症剤の投与で症状が改善する場合もありますが、そうでない場合は手術を行います。手術は断裂の状態に応じて、関節鏡を用いて半月板切除または縫合を行います。

前十字靭帯(ACL)損傷

前十字靭帯損傷はスポーツでタックルをうけて膝をひねったり、ジャンプの着地や急な方向転換の際に受傷します。その際、膝は一旦腫れますが、1カ月程度で炎症はおさまり、日常生活には支障がないこともあります。しかし、前十時靭帯が損傷すると、膝関節の前方の不安定性が出現します。損傷したままで、スポーツに復帰すると再び腫れをおこし、半月板や軟骨に合併損傷をおこしてしまいます。そのためスポーツをされる方には特に手術をお勧めします。当科では鏡視下に半腱様筋腱や薄筋腱を使用して靭帯再建術を行っております。

後十字靭帯(PCL)損傷

交通事故でダッシュボードで膝を強打したり、バイク事故で膝を強打すると、後十字靭帯が損傷します。後十字靭帯が損傷すると、膝関節の後方の不安定性が出現します。損傷の程度によって、症状の強さが違います。膝の裏がだるくなったり、疼痛が出現します。また、階段の昇り降りも困難になったりします。損傷の程度が強く、症状も強い場合には、手術が必要になります。当科では鏡視下に半腱様筋腱や薄筋腱を使用して靭帯再建術を行っております。

膝関節拘縮

骨折や手術後に膝関節の動きが悪くなることがあります。リハビリを行っても動きが改善しない場合には、当科では鏡視下に関節内の授動術を行っております。

離断性骨軟骨炎

外傷やスポーツによる障害、血行障害などにより、関節軟骨の一部が壊死を起こす病気です。診断にはMRIが必要になります。壊死の進行程度により治療方針が変わります。当科では手術が必要な場合には、その状態に合わせて、鏡視下関節内遊離体摘出術・鏡視下ドリリング・鏡視下軟骨移植術(mosaicplasty)などを行っております。

反復性膝蓋骨脱臼

一度膝蓋骨を脱臼すると、その後、膝蓋骨が外側に脱臼しやすい状態になる場合があります。階段の昇り降りに支障を来すこともあります。脱臼の回数や程度によっては、手術が必要な場合もあります。当科では半腱様筋腱を使用した内側大腿膝蓋靭帯(MPFL)の再建術や脛骨粗面前内方移行術などを行っております。

膝蓋内側滑膜ひだ障害(タナ障害)

膝を曲げ伸ばしする時に“コリッ”と音がなり、膝の痛みが出現します。これは関節内にある滑膜ひだが、関節内で引っかかることが原因です。保存的治療でも症状が改善しない場合には、鏡視下に、この滑膜ひだを切除します。