対象とする主な疾患

小児外科領域疾患には、鼠径ヘルニア、虫垂炎、肥厚性幽門狭窄症、腸重積症、胆道拡張症、ヒルシュスプルング病などの腹部・消化器疾患、食道閉鎖症、小腸閉鎖症、鎖肛などの新生児疾患、小児固形腫瘍、外傷が含まれますが、泌尿器科領域(停留精巣、陰嚢水腫、水腎症など)、婦人科領域(卵巣腫瘍、陰唇癒合など)、耳鼻科領域(正中頸嚢胞、側頸嚢胞、咽頭梨状窩瘻など)の小児疾患も治療の対象です。

鼠径ヘルニア

"脱腸"と呼ばれており、鼠径部(下腹部で足の付け根に近いところ)がふくらんでくる疾患です。生後1ヶ月頃から発症しますが、小学生になってから出てくる児もあります。ヘルニア嚢とよばれる袋が生まれつき残っていることが原因で発症します。戻らなくなって強い疼痛がある場合は、緊急の処置もしくは手術が必要となります。自然に治ることは少ないので、手術を勧めています。手術方法には従来から行われている鼠径部を2〜3cm切開し袋の根元を糸で結紮する手術(Pott's法など)と、最近行われるようになった腹腔鏡下根治術の2つがあります。いずれの手術も腸管や卵巣が脱出していれば腹腔内にもどし、腹膜から連続する袋を根元でしばります。嵌頓して腸管が腐っている場合にはかなり傷を大きくして、おなかの中の状態を調べる必要があります。男児の場合は精巣に向かう血管や精管が袋についており、損傷しないように注意する必要があります。術後は、6ヶ月までの乳児は手術翌日退院、それより大きなお子さんは手術当日の退院が可能です。

腹腔鏡下鼡径ヘルニア手術

腹腔鏡には、お腹の中を直接観察できる直径3mmの内視鏡(カメラ)を使用します。臍の中央に3mmの切開を加えカメラを挿入し、二酸化炭素でお腹を膨らませテレビモニターに映してヘルニアを内側から観察します。その後、右側腹部に3〜5mmの小さな切開を加え鉗子という細いマジックハンドのような器具をいれ、鼠径部からヘルニア用に作られた特殊な針を使用してヘルニア門の周囲に糸をかけ閉鎖するというものです。傷が非常に小さく臍の中を利用するので、術後に傷はほとんどわからなくなります。しかし、腹腔鏡での手術が困難な場合には、途中から通常の手術に変更する場合があります。

【利点】
傷が小さく痛みが少ない

従来は2cmほどの切開でしたが、3mmの傷になり術後の痛みが少く傷が目立ちません。

反対側のヘルニアの存在が判明する事があります

膨らんではないけれど、反対側に鼡径ヘルニアの袋が存在することがあります。腹腔鏡では反対側も観察できるため、もしあれば同時に手術が可能です。(左右手術しても傷は増えません)

日帰りが可能

従来の手術同様に、手術後日帰りが可能です。

【欠点】
気腹

お腹の中を見えるようにするために二酸化炭素ガスを腹腔内に注入します。急にお腹が膨れるために、不整脈や神経性ショック、高炭酸ガス血症などが報告されています。しかし、当院ではそのような経験は今のところありません。

視野が狭い

カメラには死角があるため、腹腔内の他臓器損傷のリスクが極わずかですがあります。
腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術は、生後6ヶ月以上の児に行っています。

*当科ではその他にも色々な小児の疾患に腹腔鏡手術を行なっています。
胆嚢摘出術、虫垂切除術(盲腸の手術)、脾臓摘出術、噴門形成術(胃食道逆流症の手術)、ヒルシュスプルング病、メッケル憩室など

陰嚢水腫・精索水腫

鼠径ヘルニアの袋の部分に水がたまる疾患です。新生児・乳児期に発症したものは、自然治癒することが多く、また水がたまることで外見以外の問題はないため、大きくなるまで様子を診ます。針で刺して水を抜いてもすぐに貯まるので、このような処置はしません。治らないときは外見上の問題から、2歳を越えてから手術を勧める様にしています。
手術は鼠径ヘルニア手術と同じもので、術後の創部の状態も鼠径ヘルニアと同様目立ちにくいものとなります。

臍ヘルニア

生後間もない頃より臍部が膨れてくる状態です。自然に治るのが9割で、また嵌頓(かんとん:腸がはまり込んでうっ血し、戻らなくなる)は非常にまれなので、乳児期に手術することはありません。2歳をすぎても治らないときは、外観上の問題から手術を勧めています。
最近、臍ヘルニアの圧迫療法が再度見直されて来ています。ピンポン球くらいある大きな臍ヘルニアは自然治癒した後、臍部の皮膚が余剰となり、いわゆる"でべそ"になることがあります。これを予防するためには、圧迫療法が有効です。圧迫療法の欠点は、週一回の通院が約1〜2ヶ月必要なこと、絆創膏で皮膚がかぶれて継続出来なくなることがあります。

虫垂炎

いわゆる"もうちょう"と言われる病気で、盲腸の先端に付着している虫垂と呼ばれる小さな腸が炎症を起こし虫垂炎となったものです。抗生剤による保存的治療(いわゆる“散らす”)で軽快することも多いですが、中には穿孔(虫垂が破れる)して重症の腹膜炎になったり、膿瘍(膿のかたまり)をつくることもあり、一概に治療は簡単に終わるものばかりではありません。手術が複数回になることもあります。

当院では、血液検査、超音波検査、CT検査などを行い、虫垂炎がどのような程度なのかを術前に評価し、治療にあたっています。中程度より炎症が強い場合は、原則として手術を勧めています。
手術は、腹腔鏡下虫垂切除術を標準術式として行っています。

理由は、

  1. 術者の経験、穿孔の有無、患者さんの体型に関わらず、一定の小さな創部で手術が可能
  2. 穿孔・腹膜炎症例でも創感染が少ない
  3. もともと小児は、全身麻酔で手術施行している

というものです。

臍の部分を縦に約2〜3cm切開することにより、一つの傷から虫垂切除を行っています(SILS)。臍部の傷跡は目立たないものとなります。炎症や癒着が強かったり、膿瘍形成(膿のかたまり)している場合は、更に1〜2本ポートと呼ばれる器具を挿入しますので、約1cmの傷跡が1〜2箇所残ります。退院後外来にて創部に貼付したテープ・フィルムを除去します。(抜糸はありません) 平成24年度施行した腹腔鏡下虫垂切除術46例のうち34例が単孔式で完遂できました。

停留精巣

男児で睾丸が陰嚢内に降りてきていない状態です。大きくなるまで放置すると、将来、妊孕性(パートナーが妊娠される率)が低下する危険性が大きくなり、1歳までの手術を勧めています。ただ、遊走精巣といって緊張時などに精巣が上がってだけの児もありますので、専門医の診察が必要です。