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進行性核上性麻痺(PSP)

基礎知識と療養のポイント

監修;兵庫県立尼崎総合医療センター 脳神経内科

進行性核上性麻痺(以下PSP)は、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病とともにパーキンソン病関連疾患に含まれる疾患です。この疾患は厚生労働省の定める指定難病です。

1.PSPはどんな病気?

どのくらいの患者さんがいるのでしょうか。推計で人口10万人あたり約5人の患者さんがおられます。パーキンソン病に比べると数は少ないです。年齢は60歳代が多く、男性の方が多いです。遺伝性はほとんど報告されていません。

2.PSPの主な症状

核上性眼球運動障害 PSPに特徴的で、眼球を自発的に動かすことができなくなりますが、他動的に頭を動かせば動きます。はじめは垂直方向(特に下向き)に制限されますが、進行すると全方向に制限されます
仮性球麻痺 しゃべりにくい、飲み込みにくいといった症状です
体幹と項部のジストニア 体幹の筋肉が固くなり、首が後ろに反ってくるのが特徴です
認知機能障害 物忘れをしたり、思考がゆっくりになったり、無感動になったり(仮面様顔貌)、抑うつがでたりします。物事を抽象化したり、グループ化して考えることが苦手になったり、段取りがうまくできなくなったりします
起立、歩行障害 起立や歩行が障害されます、バランスが悪くなり特に後方へ転倒しそうになります。

3.病気の原因

上記の症状は病気の初期からすべてが現れるわけではありません。PSPの最初の報告者であるSteeleは次のように経過を分類しています。

I期
  • 歩行不安定
  • 易転倒性(後ろに倒れやすい、姿勢反射障害、危険認知度の低下による)
  • 動作緩慢(動作が遅くなり思考が緩慢になる)
  • 霧視(むし、目がボヤーッとする)
  • 発語障害(ことばが出て来にくい)
  • 認知機能障害(物忘れ、思考の緩慢、無感情、抑うつ、抽象化する思考の障害)
II期
  • 核上性眼球運動障害(垂直方向に動かせなくなる)
  • 開眼失行、眼瞼痙攣(眼を閉じた後、開けにくくなります)
  • 歩行障害
  • 項部ジストニア(体幹の筋肉が固くなり、頚部が後方に反る)
  • 仮面様顔貌(表情がかたくなる)
  • 構音・嚥下障害
  • 認知障害
III期
  • 眼球運動の完全障害(垂直方向だけでなく全方向に動かせなくなる)
  • 体幹の固縮・項部硬直
  • 起立不能・寝返り困難
  • 認知障害著明
  • 発語障害不明
  • 無動・無言状態

4.PSPの病因

タウ蛋白というタンパク質が細胞内に異常蓄積するのがPSPの原因であることが分かってきています。タウ蛋白が関連している疾患(タウオパチー)は他にアルツハイマー病やピック病があります。

5.PSPの診断

厚生労働省による診断基準は以下のものです

主要項目
(1)40歳以降で発症することが多く、また、緩徐進行性である。
(2)主要症候
垂直性核上性眼球運動障害(初期には垂直性衝動性眼球運動の緩徐化であるが、進行するにつれ上下方向への注視麻痺が顕著になってくる)
発症早期(概ね1〜2年以内)から姿勢の不安定さや易転倒性(すくみ足、立直り反射障害、突進現象)が目立つ。
無動あるいは筋強剛があり、四肢末梢よりも体幹部や頸部に目立つ。
(3)除外項目
レボドパが著効(パーキンソン病の除外)
初期から高度の自律神経障害の存在(多系統萎縮症の除外)
顕著な多発ニューロパチー(末梢神経障害による運動障害や眼球運動障害の除外)
肢節運動失行、皮質性感覚障害、他人の手徴候、神経症状の著しい左右差の存在(大脳皮質基底核変性症の除外)
脳血管障害、脳炎、外傷など明らかな原因による疾患
(4)判定

次の3条件を満たすものを進行性核上性麻痺と診断する。

(1)を満たす。
(2)の2項目以上がある。
(3)を満たす(他の疾患を除外できる)

6.PSPの治療

残念ながらPSPの特効薬は現在のところありません。しかしながら症状に対応するための薬はあります。パーキンソン病の薬が固縮に効果があることがあり、パーキンソン病の薬を使ったりします。

  • ドパミン作用薬(パーキンソン病治療薬)
  • 三環系抗うつ剤(抑うつに効果があります)
  • セロトニン代謝に作用する薬剤
  • ノルアドレナリン作動薬
  • コリン作動薬
  • 塩酸アマンタジン

7.日常生活・介護の注意点

① 転倒対策について

前頭葉性の認知障害のため危険認知度が低くなり、危ないところでも歩いてしまったり、つかまってはいけないものに平気でつかまったりします。また、姿勢が傾いたときに立ち直ろうとする反射障害により、転びやすくなります。以下の点に気をつけましょう。

  • 危険防止のための声かけをまめにしましょう
  • 歩行には可能なら介護者がつきそいましょう
  • 家具の角には保護クッションをつけましょう
  • 手すりを早めにつけましょう
  • 家の中の通路は整理しましょう
  • ベッドは低くしておきましょう
  • 排泄は早めに行くように誘導しましょう
  • 目に見えるところに気の引くものを置かないようにしましょう、ふと見たものを取りたくなると危険です
  • 保護帽子をかぶりましょう
② 嚥下障害について

嚥下障害は下のような要因によっておこります。

  • 下方視障害
  • 頭部頚部ジストニアのためうつむきにくくなる
  • 脳機能低下により嚥下機能の調節不能になる
  • 行動変化によって一気に食べ物を口に入れたりしてしまう

嚥下障害の兆候としてはよだれ、口の中にものをためる、飲み込みに努力がいるようになる、食事時間が長くなる、むせが多くなる、体重減少、微熱や肺炎などがあります。このような兆候が見られたら早めに医師や看護師に相談し、対策をとることが必要です。食事のときは以下のことに気をつけましょう。

  • なるべくベッドではなく、椅子に座って体をまっすぐにして食べましょう、頭まで支える椅子や車椅子を使用する方法もあります
  • 食事中は気が散らないようにテレビなどは消しましょう
  • 食事のお皿が視野に入るように工夫しましょう、真下にあるものは視野に入りません
  • いろいろな食器や用具を試しましょう
  • 食事前には口やのどから余分な分泌物や唾液を取り除きましょう
  • 少しあごを引いた頭位を保ちましょう
  • 一口の分量は多すぎないようにしましょう
  • 液体はとろみをつけましょう(増粘剤の使用)
  • 口腔を清潔に保ちましょう

嚥下が難しくなってきたら経鼻胃管を使用したり胃ろうを増設したりする選択肢があります。ご本人にとっても介護者にとってもそれぞれのメリット、デメリットがあります。

③ リハビリについて

認知障害によって危険察知能力が下がった状態で無理にリハビリを行うことは危険です。リハビリは理学療法士や安全な介護者のもと、環境を整えて行いましょう。病気は進行していきますが、拘縮や廃用症候群を予防していくことは大切です。ベッド上の生活になったら拘縮予防をしていきましょう。

④ 認知機能障害について

アルツハイマー病などに比べて記憶障害や失見当識は軽度です。以下のことに気をつけましょう。

  • 思考が緩慢であり返答に時間がかかります 時間をかけてコミュニケーションをとりましょう
  • 無言・無動状態になってもある程度は理解していることがあります、あきらめずにゆっくりコミュニケーションをとりましょう

8.快適な生活を送るために・・・

病気になったことで落ち込み、心まで病ませがちですが、恐れや不安は素直に外に出しながら、病気や薬への理解を深めて、過度な不安をもたないようにしましょう。

食事や栄養方法、排泄や入浴などに工夫をして快適な生活を送ることで、尊厳を保ちながら暮らすことができます。

笑顔やユーモアを忘れず、家族や周りの人との良い関係を保ちましょう。看護や介護には様々な社会資源があります。保健所や市役所福祉、地域包括支援センターなどが相談にのってくれます。

往診医や訪問看護、訪問リハビリ、訪問介護(この病気の方は40~64歳の方でも介護保険が使えます)など社会資源をうまく使いながら豊かに過ごしていきましょう。

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