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筋萎縮性側索硬化症(ALS)

基礎知識と療養のポイント

監修;兵庫県立尼崎総合医療センター 脳神経内科

1. 筋萎縮性側索硬化症はどんな病気?

体を思い通りに動かすときに必要な筋肉を随意筋といい、随意筋を支配する神経を運動ニューロンと言います。運動ニューロンには、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの2つがあります。これらの運動ニューロンが侵されると、筋肉を動かしにくくなったり、筋肉がやせてきます。筋萎縮性側索硬化症は、運動ニューロンが侵される病気です。その詳しい原因は解明されていません。

① どのくらい患者さんがおられるのでしょうか

発病率人口10万人あたり0.4~1.9人、有病率人口10万人あたり2~7人、約2:1で男性に多くみられます。平均発症年齢は60歳前後、40歳以下の発症は約10%あります。家族性発症は5~10%で優性遺伝が多く、うち20%はSOD遺伝子変異が関係しています(21染色体)。その他の家族性の筋萎縮性側索硬化症では、関係遺伝子は不明です。

② 筋萎縮性側索硬化症(ALS)には、どのような症状がありますか
上肢麻痺

多くは指先の麻痺、手の筋萎縮で発症します。進行すると筋のピクつきや関節の痛みもみられます。

下肢麻痺

歩行時のつっぱりが初期には多くみられます。進行すると足の麻痺、転倒しやすい、筋萎縮などが加わります。足先の麻痺(足首が上がらない)で発症することもあります。筋のピクつき、筋痛や関節痛もあらわれます。

球麻痺

顔・舌・のどの麻痺、筋萎縮があらわれます。

しゃべりにくい意思が伝わらず、イライラすることがあります。
口腔期嚥下障害かみにくい、かまずに飲み込む、口元からこぼれる、よだれがでる、などの症状がみられます。
咽頭期嚥下障害飲み込みにくい、鼻にたべものが逆流する、喉に残る、つまる、むせる、残留物や痰を喀出しにくい、などの症状がみられます。

口腔期嚥下障害や咽頭期嚥下障害により食事に時間がかかる、疲労する、十分に食事が取れず、やせてきます。やせについては筋肉そのものがやせてくることと、食事量が少なくなりやせてくることの両者の影響があります。

呼吸障害
初期大声を出しにくい、長く話せない、動作時の息切れ、ぐっすり眠れない、早朝の頭痛、日中ウトウトする、などの症状が見られます。
進行期安静時の呼吸困難、肩で息をする、会話も努力を要する、日中の意識障害、などの症状が加わってきます。
検査呼吸機能検査(努力性肺活量、%FVC)、動脈血ガスなど

2.筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断はどのようにされるのでしょうか?

日本では、1995年の厚生省の診断基準があります。
神経所見
  1. 球症状:舌の麻痺・萎縮・線維束性収縮(筋のピクつき)、構音障害、嚥下障害
  2. 上位ニューロン徴候:痙縮、腱反射亢進、病的反射
  3. 下位ニューロン徴候:線維束性収縮、筋萎縮、筋力低下
臨床検査所見

特定の検査はありませんが、針筋電図で下位ニューロン障害の有無を調べます。

鑑別診断
  • 下位または上位ニューロン障害のみを示す神経変性疾患
  • 脳腫瘍、多発性硬化症など脳幹病変
  • 頚椎症、後縦靭帯骨化症など脊髄病変
  • 末梢神経障害
[診断の判定]

次の1~5のすべてを満たすものを、筋萎縮性側索硬化症と診断します。

  1. 成人発症である。
  2. 経過は進行性である。
  3. 神経所見で、上記3つのうち2つ以上をみとめる。
  4. 筋電図所見をみとめる。
  5. 鑑別診断のいずれでもない
その他にもいくつかの国際的な診断基準があります。

診断に確実な生物学的指標はなく、神経学的所見・臨床経過・除外診断が決めてとなります。発症初期での診断が困難なこともあり、確実な診断には経過観察が必要で1~2年ほどかかることもあります。鑑別の特に重要なものとして、①球脊髄性筋萎縮症(Kennedy-Alter-Sung病)、②若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)、③伝導ブロックを伴う多巣性運動ニューロパチーなどがあります。

3.筋萎縮性側策硬化症の療養はどうすればよいでしょうか

筋萎縮性側策硬化症の症状は人によって異なりますが、嚥下障害、言語障害、運動障害、呼吸障害が現れてきます。それぞれの障害に対処することが必要となります。

① 嚥下障害

ALSでは顔面や舌の萎縮、筋力の低下によって、舌で食べ物を送り込んだり、うまくかむことが難しくなってきます。また、喉の筋力が低下して、固形物がつかえやすくなったり、水分でむせやすくなることもあります。飲み込みやすい食品の形態や温度には個人差があるので、それぞれの状態に応じた工夫の一例を表にしてみました(別表)

安全に美味しく摂取できる方法を考えることが大切です。また、病気の進行に応じて対応していくことも必要です。口から食べることが難しくなった場合には、経鼻経管栄養法や胃に小さな孔をあける胃瘻造設法などによって、栄養や水分を確保します。どの方法がよいかは、主治医と相談し、希望にあった処置をしてもらうようにしましょう。

② 言語障害

舌の萎縮や筋力の低下によって、言葉が不明瞭になりますが、聞き手側が根気良く聞き取ろうとしてあげることが大切です。また、YES-NOで答えられるような問いかけをすると明確な反応を得やすくなります。手や指の筋肉も弱くなるため、筆談も難しくなります。こういった場合でも、文字盤や意思伝達装置などを利用して、コミュニケーションをはかることができます。機器によっては、一定の身体障害者手帳を持っておられる方は、補装具の給付の対象となります。

まず、主治医や病院の言語聴覚士・作業療法士や医療ソーシャルワーカー等にご相談ください。また、地域の保健所の保健師に相談するのもよいでしょう。

③ 運動障害

運動障害があらわれる部位や程度も、人によって異なります。日常生活でできる工夫や補助具によって、少しでも快適な生活を過ごせるようにしましょう。療養生活環境の整備を早めにすることが大切です。福祉用具の購入・レンタルには、公的支援が受けられることがあります。

〈上肢の障害〉

肩の周囲の筋肉が弱くなってくると、腕が上がりにくくなります。低い位置に物を置きましょう。腕が上がりにくくなると、腕を支える器具を購入したり、テーブルなどに肘を付いて、作業をしてみましょう。また、ゆったりとした服を着ることで、着脱はしやすくなります。

〈下肢の障害〉

脚の筋肉が弱くなると、体のバランスを保つことが難しくなってきます。早めに、杖などを使用して歩行を続けましょう。杖には使用目的に沿ってさまざまなタイプがありますので、主治医や理学療法士に相談しましょう。室内では、トイレ、浴室、などに手すりを取り付けると便利です。どの高さでも握れるように、手すりを縦につけるとよいでしょう。

日常生活の中で、出来ることは自分でするよう努力してみましょう。翌日に疲れが残らない程度に体を動かすことは、リハビリにもつながります。

④ 呼吸障害

呼吸筋が弱ってくると、肺や気道の分泌物を吐き出す力が弱くなります。しかし、初期のうちには、自覚症状を感じないことが多いので、症状が出る前から呼吸筋をきたえるよう心がけましょう。リハビリをすればするほど機能が強化されるということではありませんが、病気によって筋力が低下し、筋肉を動かせる範囲がせばまることで、呼吸機能が低下する原因になります。この様な二次的な障害(廃用症候群)を防ぐことがリハビリの目的となります。

  • 深呼吸訓練
  • 肋骨のねじり運動
  • 呼吸が楽な体位、ADL動作の工夫
〈苦しくなってきたら・・・〉
鼻マスクによる非侵襲的人工呼吸器法努力性肺活量(%FVC)が理論正常値の60~50%に低下時が一つの目安
気管切開後の人工呼吸器法努力性肺活量(%FVC)が理論正常値の40%以下に低下時が一つの目安

などの呼吸補助があります。

〈人工呼吸器を付けるかどうか検討するために〉

生活の質を維持できるかどうか、経済的な保障があるかどうか、在宅療養では介護者(マンパワー)が確保できるか等要素があります。どのように療養生活を過ごすのか、早い時期から家族と共に話し合っておくことです。一度決めたことでも、あとで変えることもできます。ご自身の人生を、どのように生きるのかをよく考えましょう。

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