無心体双胎(TRAP sequence)に対するラジオ波熱凝固による胎内血流遮断術

無心体双胎(TRAP sequence)に対するラジオ波熱凝固による胎内血流遮断術

RAP sequence(Twin reversed arterial perfusion sequence、無心体双胎妊娠)は、一絨毛膜性双胎妊娠の1%(約35000分娩に1例)の頻度で発生する極めて稀な妊娠合併症です。胎盤表面の双胎間動脈吻合と器官形成期における一児死亡により、死亡児は逆行性血流路により不充分ながらも酸素・栄養の供給が維持され、紙様児となることを免れ、いわゆる無心体となります。本症は、健側児の心拍出が、胎盤表面の双胎間動脈・動脈吻合を介する逆行性血流路により既に有効な心拍出能を喪失した死亡児の血液潅流を代償する特異的循環動態を形成し、過剰駆出負荷の持続が高拍出性の代償性心不全を引き起こし、最終的に非代償性の心不全や胎児水腫となります。その周産期死亡率は50〜75%にも達するという報告もあり、厳重な周産期管理が要求されます。近年、ラジオ波熱凝固による無心体血流遮断術が報告され、その有効性が確認されています。

目的

ラジオ波熱凝固により無心体内の血管を凝固することにより血流を遮断し、健側児の心不全、胎児水腫、羊水過多症を改善させようとするものです。これにより、さらなる妊娠延長が可能となり、健側児は、生存はもとより、新生児期に濃厚な治療を要することなく成育することが可能となる効果が期待されます。

方法

母体に硬膜外麻酔、あるいは全身麻酔を施し、母体腹壁より超音波ガイド下にラジオ波熱凝固針を無心体臍部に穿刺し、血流遮断するまで段階的に電気エネルギーを増大させます。羊水過多症を伴っている場合は必要に応じ羊水除去術を併用します。

適応基準:以下の項目のうちいずれかにあてはまる。

  1. 無心体/健側児 腹囲比 1.0以上
  2. 羊水過多症がある(最大羊水深度 8cm以上)
  3. 健側児の血流異常(臍帯動脈の拡張期血流途絶/逆流、臍帯静脈の波動、静脈管の逆流、など)
  4. 健側児の胎児水腫
  5. 一羊膜双胎

除外基準:以下の項目のうちいずれかにあてはまる。

  1. 妊娠28週以降
  2. 著明な健側児心不全
  3. 頸管長20mm未満の切迫流早産例
  4. 継続を許容できない合併症を有する症例
  5. 健側児に重大な先天異常がある

使用する医薬品、医用材料

市販されているCool-tip RF System(RADIONICS社)及びラジオ波熱凝固専用針(RFA針)及びカラードップラー超音波診断装置。そのほか、麻酔・手術維持に必要な一般的な物品・薬品類

費用

本術式は、現時点では保険適応を有さないことから、その施行に関しては自費診療となります。概算では、治療に関わる患者負担は3日間の入院期間で約35万円〜40万円となります。入院4日目からは、通常の産科・周産期管理を要すれば一般健康保険診療での取り扱いとなります。また、治療の成否にかかわらず、通常の産科・周産期診療が必要と判断された段階で健康保険診療の対象となります。