出生前外来

出生前外来

当院では、2020年8月から出生前診断外来、NIPT外来を再編し、出生前外来を開設しました。これに伴い、他の医療機関からの紹介を受入れることになりました。受け入れ可能な医療機関は、協定書を締結した26医療機関です。この26医療機関からの紹介の妊婦さんと当院通院中の妊婦さんは希望されれば当外来を受診することができます。

診療体制(2021年1月時点、変更の可能性あり)

開設時間 毎週 月曜日 午前
   水曜日 午前
   金曜日 午前
担当 佐藤(臨床遺伝専門医、FMF certificate取得)
今村(臨床遺伝専門医、日本産科婦人科遺伝診療学会認定医(周産期)、FMF certificate取得)
診療所要時間 30分~1時間

対象疾患について

各検査によって少しの違いはありますが、今回のスクリーニング検査の対象となっている染色体疾患はダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーの3種類です。

ダウン症候群は21番染色体が1本多い染色体疾患です。そこで21トリソミーとも呼ばれます。ダウン症候群は常染色体の変化による疾患の中では最も頻度が高い疾患です。ダウン症の人には知的発達や運動発達の遅れがみられたり、先天性心疾患などの病気の合併がみられますが、その程度は一人一人で異なります。発達は全体的にゆっくりな傾向があります。根本的な治療法は今のところありませんが、最近の医療や療育、教育の進歩によりほとんどの方が学校生活や社会生活を送っています。中には趣味を生かし、画家や書道家、俳優として活躍している人もいます。

18トリソミーは、18番染色体が一本多い染色体疾患です。子宮内から赤ちゃんの体重発育が遅れることが多く、90%に先天性の心臓病があり、その重症度が赤ちゃんの生命力に大きく影響すると考えられています。また運動面、知的な発達は強い遅れを認めます。出生1ヶ月で約半数が亡くなり、1年後の生存率は約10%といわれていますが、中学生になるまで成長した方もいらっしゃいます。

13トリソミーは、13番染色体が一本多い染色体疾患です。複数の先天的な内臓疾患などを合併します。80%以上が重篤な先天性心疾患を合併するとされ、運動や知的な発達は強い遅れを認めます。生命的な予後は内臓合併症によりますが、1年後の生存率は約10%といわれています。

これらはすべてスクリーニング検査であり、確定診断である絨毛検査や羊水検査をうけるかどうかを判断するための助けとなるものです。羊水検査には流早産のリスク等を伴いますので、希望されるかたにはあらためて検査についての説明をさせていただき同意を得たかたにおこなっております。(当院では現在、絨毛検査は施行しておりません。)

NIPT(母体血中cell-free DNAを用いた無侵襲的出生前遺伝学的検査)

1.意義と対象疾患

1997年に妊婦さんの血液の血漿成分中に胎盤に由来する浮遊DNAが含まれていることが報告され、それを用いて赤ちゃんの性別や遺伝子病を診断する研究が行われてきました。また、赤ちゃんの染色体疾患の診断に応用する研究も行われていました。そこに、高速度に遺伝子配列を読む研究装置が開発され、この研究分野に応用されるようになりました。この装置を用いて、母体血漿中の浮遊DNAの断片の遺伝子配列を解読することで、DNA断片が何番染色体に由来しているかを判定することができます。そして、染色体ごとにその断片数を集計して、赤ちゃんの染色体の数の変化、その代表的疾患がダウン症候群(21トリソミー)や18トリソミー、13トリソミーですが、その検出を行います(母体血中cell-free DNA胎児染色体検査:母体血胎児染色体検査と略す)。

この検査で検出できる染色体疾患はダウン症、18トリソミー、13トリソミーの3種類です。

2.方法

本検査は、妊婦さんが検査や検査でわかる疾患、検査結果によって起きうる状況について十分理解した上で行われる検査です。

高齢妊娠、前のお子様が染色体疾患であった、超音波検査で染色体疾患を疑う所見があるなど、赤ちゃんに染色体疾患(ダウン症[21トリソミー]、18トリソミー、13トリソミー)がみられる可能性が通常の妊婦さんに比べて高いと考えられる妊婦さんをおもな対象としています。検査を希望される場合は、本検査とともに羊水検査や絨毛検査などの確定的検査も説明して遺伝カウンセリングを行います。本検査は確定的検査ではないので、超音波所見などでダウン症[21トリソミー]、18トリソミー、13トリソミーが極めて高く疑われる場合や他の染色体疾患が疑われる場合は、本検査を受ける意味がありません。それらの説明を理解した上で、本検査を自らの意思で希望する場合に約20mL採血します。検査会社に送られて検査されます。

検査でわかることは、赤ちゃんの染色体の中で21番、18番、13番染色体の数的変化の有無です。検査結果がでるまでには約2週間かかります。検査結果は遺伝カウンセリング外来で説明します。検査結果が染色体疾患を疑うという結果であった場合には、その結果の意味やその後の確定的検査を受けるかどうかの判断などについて、自ら判断できるように遺伝カウンセリングを行いながらサポートいたします。

3.精度

この検査の精度ですが、検査結果が陰性の場合、赤ちゃんにその染色体疾患がみられる確率は0.1%以下といえます。検査結果が陽性の場合、赤ちゃんにその染色体疾患のみられる確率は相当高くなりますが、年齢や異常所見の有無によって異なります。通常の適応で羊水検査をうける方(今回この検査を受ける方に相当します)の場合は、この検査の陽性適中率(検査が陽性とでた場合に実際に染色体疾患が見られる率)は約80-95%です。このように本検査は、母体と赤ちゃんの双方にとって侵襲がなく、生まれてくる赤ちゃんに見られる主な染色体疾患である21番、18番、13番染色体の数の変化を高い精度で検出する検査です。検査には、赤ちゃんに疾患があるのに陰性と出る(偽陰性)ことや、疾患がないのに陽性と出る(偽陽性)ことが稀にあります。よって、確実な診断には羊水穿刺や絨毛採取による染色体検査が必要になります。また母体の血漿中に浮遊する胎児のDNA断片量が少ないとうまく結果がでなくて判定保留となることがあります。その場合はもう一度採血をして再度検査することとなります。再検査による追加の費用は発生しません。

4.検査の時期、費用

検査は妊娠10週から22週まで可能ですが、検査が陽性であったときに羊水検査をする必要性があることなどから妊娠14週までに受けることがのぞましいと考えられます。費用は自費で約11万円です。(2023年時点、カウンセリング料込み)

5.NIPT後の検査

結果が陽性の場合、確定診断である羊水検査が勧められます。羊水検査についてはまた別途説明させていただきます。

コンバインドテスト(ファーストスクリーン™)

1.対象となる胎児の疾患

ダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミー

2.検査方法

妊婦さんから血液を採取し、血液中のPAPA-AとhCGと言う成分を測定します。これらは妊娠中に胎児または胎盤で作られる成分です。これらは妊娠が進むにつれて増減しますが、胎児が対象疾患であるかどうかも影響します。

コンバインドテストは2つの成分の値と超音波検査によるNT(Nuchal Translucency:胎児後頸部浮腫)測定の結果、および妊婦さんの年齢、体重、家族歴、インスリン依存性糖尿病の有無のような因子を用いて、胎児がそれぞれの疾患であるかどうかの確率を算出します。ダウン症候群の検出率は80%程度を言われています。(NTについては超音波マーカー検査についての説明書もご参照ください。)

妊婦さんの年齢が高くなるほど、ダウン症候群や18トリソミーの赤ちゃんが生まれる頻度が高くなるので、コンバインドテストの検査結果も高くなる傾向があります。

3.検査の時期

超音波検査で胎児のCRL(Crown Rump Length:胎児頭殿長)が39〜84mmの時期のみ検査を受けることができます。このCRLは概ね妊娠11週から14週になりますが胎児の個体差もあるので当院では12〜13週に来院していただいています。ただ、測定条件が悪いと(胎児の向きや母体の肥満、子宮筋腫など)計測できないことがあります。その場合は母体血清マーカー検査、NIPT検査などほかの検査がすすめられます。

4.費用

自費診療で約37,000円です。(2023年時点、カウンセリング料込み)

5.所要日数

検査後約10日間です。

6.検査結果の報告の仕方

胎児が疾患である確率が1/○○○と言うように確率で報告されます。それぞれの疾患について、基準となる確率(カットオフ値)が定められています。カットオフ地を検査を受けた妊婦さんの確率を比較し高い場合はScreen Positive(スクリーニング陽性)、低い場合にはScreen Negative(スクリーニング陰性)と報告されます。

Screen Positveは確率がカットオフ値より高いが、生まれてくる児が必ず対象疾患に罹患していると言うことではなく、逆にScreen Negativeはカットオフ値より低いが対象疾患の児が絶対に生まれないと言うことではありません。(双胎妊娠の場合、18トリソミーの結果は報告されません。)

7.コンバインドテスト後の検査

スクリーニング陽性の場合、確定診断となる絨毛検査や羊水検査がすすめられます。当院では絨毛検査は施行していないため羊水検査となります。また別途説明させていただき同意を得た方に施行します。結果を聞くのが妊娠14週までの方には羊水検査の前にNIPT検査をうけるという選択肢もあります。

クアトロテスト

1.意義

クアトロテストは、赤ちゃんが下記の対象となる疾患を持っている確率を算出するスクリーニング検査です。確定診断である羊水検査や、より正確な情報を得るための画像診断の必要性を考慮する材料になります。クアトロテストは、妊婦さんの年齢のみに依存しない妊婦さん一人ひとりの確率を算出します。

2.対象疾患

ダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミー、開放性神経管奇形

3.方法

妊婦さんから少量の血液を採取し、血液中の4つの成分(αフェトプロテイン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、非抱合型エストリオール、インヒビン)を測定します。これらは妊娠中に赤ちゃんまたは胎盤で作られる成分で、妊娠が進むにつれて増減しますが、赤ちゃんが検査の対象疾患であることによっても増減します。クアトロテストは、年齢と4つの成分の値、および体重、家族歴、インスリン依存性糖尿病の有無を用いて、赤ちゃんがそれぞれの疾患であるかどうかの確率を算出します。年齢が高くなるほど、ダウン症候群の赤ちゃんが生まれる頻度が高くなります。クアトロテストは、母体年齢に固有の確率をもとに計算しているため、年齢の高い妊婦さんほどトリプルマーカーの検査結果の確率が高くなる傾向があります。

4.検査の時期

検査推奨時期は、妊娠15週から17週頃までです。それ以降でも検査をすることは可能ですが、クアトロテストの結果を見てから羊水検査を受ける可能性があるため、16週頃までに受けることが望ましいです。

5.所要日数

採血日から結果が出るまでに約10日かかります。

6.検査結果の報告の仕方

ダウン症候群、18トリソミーの場合

「異常があります」「異常はありません」という形ではなく、確率で報告されます。たとえば妊婦さんの年齢が30歳の場合は、「年齢だけでみた場合のダウン症児妊娠の確率は1/704 年齢とクアトロテストで算出したダウン症児妊娠の確率は1/3134」のように報告されます。

開放性神経管奇形の場合

児がこの疾患である場合クアトロテストで測定する項目の一つのα‐フェトプロテインが増える傾向があります。α‐フェトプロテインの値を妊婦さんの妊娠週数と体重で補正し、疾患の確率を推定します。結果はα‐フェトプロテインの上昇の有無として報告されます。

7.クアトロテスト後の検査

報告された確率を確認した後に、赤ちゃんが対象疾患であるかどうかについて、より正確な情報を得るための検査があります。

8.費用

すべて自費診療で約28,000円(2023年時点、カウンセリング料込み)となります。

超音波マーカー(NT、そのほかのソフトマーカー)検査

1.対象となる胎児の疾患

ダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミー

2.検査方法

超音波にて胎児を観察し、CRL(Crown Rump Length:胎児頭殿長)とNT(Nuchal Translucency:胎児後頸部浮腫)を計測します。(希望者には鼻骨、三尖弁の血流、静脈管の血流など他の項目も測定します)それらの項目と妊婦さんの年齢をFMF(The Fetal Medical Foundation)という妊婦さんと胎児について研究している国際機関が作成した専門のソフトウェアを利用して胎児が染色体疾患である確率を算出します。ダウン症候群の検出率は70%程度と言われています。

妊婦さんの年齢が高くなるほど、ダウン症候群などの赤ちゃんが生まれる頻度が高くなるので、超音波マーカー検査の結果も高くなる傾向があります。

NT肥厚とは

NTは正常、異常にかかわらず、妊娠3ヶ月後ろに見られる胎児後頸部の皮下浮腫(むくみ)のことをいいます。NTの肥厚はダウン症候群をはじめとする染色体疾患や心疾患、リンパ系の疾患の場合に見られることがあります。NTの肥厚が見られても健常な児もたくさんおられます。

NT肥厚がみられたけれども染色体疾患が認められなかった場合には妊娠中期に胎児に心疾患等がないかの精密超音波検査を受けていただきます。

3.検査の時期、費用

超音波検査で胎児のCRLが39〜84mmの時期のみ検査を受けることができます。このCRLは概ね妊娠11週から14週になりますが胎児の個体差もあるので当院では12〜13週に来院していただいています。ただ、測定条件が悪いと(胎児の向きや母体の肥満、子宮筋腫など)計測できないことがあります。その場合は母体血清マーカー検査、NIPT検査などほかの検査がすすめられます。費用はすべて自費診療で18,360円です。(2023年時点、カウンセリング料込み)

4.所要日数

測定ができれば当日結果がわかります。

5.検査結果の報告の仕方

胎児が疾患である確率が1/○○○と言うように確率で報告されます。どれくらいの値で次の検査に進むべきかという明確な基準は設定されていません。

6.超音波マーカー検査後の検査

絨毛検査や羊水検査による胎児染色体分析が確定診断となります。羊水検査を希望される方は別途説明を受け同意していただいた場合にのみ実施しています。超音波マーカー検査の結果を受けて心配だけど、絨毛検査、羊水検査をできるだけ受けたくないという方にはスクリーニング検査ではありますがNIPT検査を受けるという選択肢もあります。

羊水染色体検査

妊娠16〜18週ころに、半日入院していただき(事前の説明の日とは別に検査の日程を設定します)、母体の腹壁から穿刺用の針を子宮内に入れて羊水を採取し、羊水中に浮遊する胎児由来の細胞を回収して、これを検体として胎児の染色体を分析するものです。胎児に染色体異常があるかどうかの確定的結果を得るために行う検査です。穿刺にともなう合併症として、破水・子宮内感染・流産・胎児死亡などがあり、侵襲的検査といえます。羊水を採取してから結果が判明するまでに約3週間がかかります(FISH法を追加した場合は特定の異常のみ1週間程度で結果が判明します)。結果をお知らせするためにもう一度外来を受診して頂く必要があります。