Ⅰ)肝胆膵がんに対する積極的な取り組みについて
1:3D画像シミュレーション
2012年からCT画像を3D再構築し手術シミュレーションを行うことで、手術の質を向上させております。
2:肝門部領域胆管がんの高度戦略的な治療
2015年第115回日本外科学会シンポジウムにおいて「左側肝切除の胆管切離限界点を超えて」という表題で発表も致しました。大学病院やがんセンター以外で選出された一般病院施設は当科のみです。通常の限界を超えるような症例でも手術戦略次第では切除可能となる場合があります。
3:血管合併切除再建
肝動脈、門脈といった重要な血管をがんが侵している場合は、同時に肝動脈や門脈を切除し、血管をつなぎ合わせます。他施設で手術不能と診断された場合でも当科で手術できる可能性はあります。
4:安全な膵頭十二指腸切除
膵頭十二指腸切除術は膵臓や胆管などのがんに対して行われる一般的な手術法です。当科では膵頭十二指腸切除の後にはドレーンと呼ばれるチューブをおなかの中に数本留置し、退院までの安全性の向上に努めています。当科の手術後の管理は非常に慎重です。
近年でも膵頭十二指腸切除の手術関連死亡率は2%程度と言われておりますが、当院で過去5年間(2010年4月~2015年3月末)に施行した膵頭十二指腸切除55例に関して手術関連死亡率は0%でした。
Ⅱ)各疾患について
1:肝臓
肝臓がんは、『原発性肝がん』と『転移性肝がん』に分けられます。さらに『原発性肝がん』は肝細胞から発生する肝細胞がんと肝臓内の胆管から発生する肝内胆管がんに分けられます。『転移性肝がん』は他の臓器に由来の腫瘍が肝臓に転移してできた腫瘍です。
A. 原発性肝がん
一般的に肝がんと言っているものは肝細胞癌のことです。治療法として、手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓術、化学療法などいろいろな選択枝がありますが、腫瘍の種類、大きさや場所、肝臓の状態によって最適な治療が異なります。当科では手術を行っており、その他の治療は主に消化器内科で行っております。
B. 転移性肝がん
手術の適応となるのは主に大腸がんによる転移性肝がんです。場合によっては胃がんや乳がんの肝転移を切除することもあります。肝臓に転移した場合でも可能な限り手術により切除します。化学療法と手術を組み合わせて治療することで、治療前に肝臓の8割近くを癌に侵されている場合でも、切除できる場合があります。
肝臓がんの手術
肝臓は肝臓内の血管走行に基づいて8つの亜区域(S1~S8)に分けられます
〈系統的肝切除〉8個の亜区域のうち1個以上を、正確に、切除します。5個以上の亜区域をまとめて同時に切除することもあります。
〈非系統的肝切除〉いわゆる肝部分切除のことです。腫瘍の大きさに応じて部分的に肝臓を切除します。多くの場合、亜区域よりも小さな切除となります。また一度に数か所切除する場合があります。
2:胆道
胆道がんには胆管がん、胆嚢がん、十二指腸乳頭部がんがあります。胆道がんの治療には手術、放射線療法、化学療法などがありますが、完全な治癒を目指せる可能性が最も高い治療は手術です。いずれのがんも進行すると黄疸を発症し、全身が黄色くなります。黄疸がある場合は手術の前に消化器内科と協力して胆道内にチューブを留置することで、黄疸を改善させてから手術を行います。
A. 胆管がん
胆管がんは肝門部領域胆管がんと遠位胆管がんに分けられます。胆管がんの手術は切除と再建の2つの技術を要します。切除はがんをリンパ節や周囲の臓器とともに取り除くこと、再建は切除後に残った臓器から出る消化液(胆汁や膵液など)の流れを新たに作ること、です。
胆管がんの手術
〈肝門部領域胆管がん〉肝切除を伴う肝外胆管切除および胆道再建
〈遠位胆管がん〉膵頭十二指腸切除
なお、肝門部領域胆管と遠位胆管の両方をがんに侵された場合は肝切除+膵頭十二指腸切除+肝外胆管切除および胆道再建となります。
B. 胆のうがん
胆嚢がんの手術は、がんの進行度と、がんの位置により手術方法が変わります。早期がんの場合は胆のう摘出のみで治癒となることもあります。進行がんの場合はがんの位置により、胆管切除、肝切除を伴う胆管切除および胆道再建、肝切除+膵頭十二指腸切除+胆管切除および胆道再建、などと様々に変化します。
C. 十二指腸乳頭部がん
胆道の終着点というべき十二指腸乳頭部にできたがんです。手術は膵頭十二指腸切除となります。
3:膵臓
膵臓は頭部、体部、尾部の3つの区域に分けられます。
A. 膵臓がん
膵臓がんの治療には手術、放射線療法、化学療法などがありますが、完全な治癒を目指せる可能性が最も高い治療は手術です。手術前や手術後に化学療法や放射線を組み合わせる場合があります。
膵臓がんの手術
〈膵頭部のがん〉膵頭十二指腸切除
〈膵尾部のがん〉尾側膵切除(脾臓も同時切除)
〈膵体部のがん〉膵全摘あるいは膵頭十二指腸切除あるいは尾側膵切除
B. 膵臓のその他の病気
腫瘍性膵のう胞
腫瘍性膵のう胞は腫瘍によりのう胞と呼ばれる袋をつくる病気です。腫瘍性膵のう胞を生じる病気には膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性のう胞腫瘍(MCN)、漿液性のう胞腫瘍(SCN)などがあります。これらは良性の場合もあれば悪性(がん)の場合もあります。良性のものが段階的に悪性化(がん化)するとも言われておりますので、患者さんごとに手術するかしないかを検討していく必要があります。
神経内分泌腫瘍(NET)
膵臓の内分泌細胞由来の腫瘍です。内分泌細胞にはインスリンを産生するものやグルカゴンを産生するものなどがあります。ホルモン症状があるものを機能性神経内分泌腫瘍、ホルモン症状がないものを非機能性内分泌腫瘍と呼びます。機能性のものにはインスリノーマ、グルカゴノーマなどが含まれます。神経内分泌腫瘍の治療は基本的には手術で切除することです。腫瘍の位置、大きさにより、膵全摘、膵頭十二指腸切除、尾側膵切除を行います。肝臓に転移がある場合でも切除可能であれば肝臓の転移巣とともに切除します。