心房中隔欠損症とは?
心房中隔欠損症(Atrial septal defect:ASD)は右心房と左心房を隔てる壁(心房中隔)に穴があいている先天性心疾患で、成人においては最も頻度が高い先天性心疾患です。ASDがあると、肺から左心房に戻ってきた血液の一部が再度右心房に戻り(これを短絡血流と呼びます)、もう一度肺に流れていきますので、心臓と肺血管に余分な負荷がかかります。そのため右心不全、不整脈、肺高血圧症を生じて運動能力の低下,呼吸困難,疲労,動悸などの症状を生じます。通常は肺に送られる血液量と全身に送られる血液量は同じですが、ASDがあると肺に送られる血液量の方が多くなり、この比(肺体血流量比)が大きいほど、より重症と言えます。ただし、病状がかなり進行した場合には、この比は小さくなることがありますので、重症度判定には総合的な判断が必要です。
心房中隔欠損症の治療の適応
前述の肺体血流量比が1.5以上と診断された場合にはASDを閉鎖する必要があります。この状態は通常なら心臓が100の力を出せば十分なところをASDがあるために心臓は150以上の力を出さないと全身に十分な血液を配ることができない状態です。そのため年齢を重ねるごとに徐々に心臓の負担が表面化し、いずれはほとんどの例で易疲労感、息切れ、動悸などの症状を生じます。
最近は肺体血流量比が1.5以上という条件に合致しなくても、心臓の拡大があれば心負荷が大きいとの判断で閉鎖する方が良いとも考えられています。また、このASDを通じて血栓という血液の塊が右心房から左心房に流入して、脳梗塞などの塞栓症を引き起こした場合にも、今後の再発予防のために閉鎖の適応となります。
心房中隔欠損症の治療方法
ASDの治療は従来は外科手術で閉鎖する方法しかありませんでしたが、近年になりアンプラッツァー閉鎖栓という器具をカテーテルを用いて挿入して、ASDを閉鎖する治療が可能となりました。ただし、この治療は厳格な基準の審査に合格した認定施設においてのみ可能であり、実施する医師も同様に審査に合格した医師のみが実施可能です。審査基準が厳しいために兵庫県では認定施設は3施設のみしかありません(2018年8月現在)。兵庫県立尼崎総合医療センターでは心房中隔欠損症のカテーテル治療は今までも小児循環器内科で実施されてきましたが、高齢者を含めた成人例については術前・術後の管理も含めて循環器内科でも実施する体制を整えました。これにより様々な合併疾患をお持ちの高齢者においても積極的に治療を行っております。
アンプラッツァー閉鎖栓
閉鎖栓はナイチノールという形状記憶合金をメッシュ状に編み込んで作られており、2重の傘のような形態になっています。欠損孔を閉鎖した時には2つの傘の間のくびれた部分(ウエスト)がちょうど欠損孔にはまり、2つの傘はそれぞれ左房側と右房側から心房中隔を挟み込む形になります。
心房中隔欠損症のカテーテル閉鎖術の特色
ASDのカテーテル閉鎖術は以下の図のように鼠径部の静脈を穿刺して挿入したカテーテルから閉鎖栓をASDを通過して左心房まで挿入し、閉鎖栓の2枚の傘の間にASDの欠損孔を挟み込む形で留置します。
この治療の大きな利点は、外科手術に比べてはるかに低侵襲であることです。外科手術の場合は開胸し、人工心肺を用いる必要があります。一方、カテーテル閉鎖術ではカテーテルを挿入するために鼠径部を1ヶ所穿刺するだけで済み、治療後は2~3日で退院することが可能です。治療翌日から症状が改善する方も多くおられます。
一方で、この治療の欠点はすべての心房中隔欠損症が閉鎖できるわけではないということです。まず、心房中隔欠損症にはいくつかのタイプがあり、カテーテル閉鎖術が可能なのは2次孔欠損型の心房中隔欠損症に限られます。さらに、欠損孔の大きさ、欠損孔周囲の縁(閉鎖栓を固定するのりしろ)、周囲の構造物との距離によっては、閉鎖栓が安全かつ安定した状態で留置できないと判断され、適応外となることがあります。
兵庫県立尼崎総合医療センターでの心房中隔欠損症のカテーテル閉鎖術について
当院では複雑な症例では心臓CT検査のデータをもとに3Dプリンターで患者様の心臓と同じ形態のモデルを作成して術前シミュレーションを行うなど、安全な治療を心がけています。相談や治療をご希望の場合には水曜日の循環器内科の成人先天性心疾患外来(担当 今井)を受診してください。