心不全の集学的診察

心不全とは?

心臓は、1日に約10万回動くことにより、全身の組織に酸素を送るポンプとしての役割を果たしています。心不全とは、様々な原因によりポンプの機能が低下することにより生じる症候群と定義されます。原因は、狭心症、心筋梗塞、高血圧といった生活習慣病から、心筋症、弁膜症、不整脈といった心臓自体の問題と非常に多岐に渡ります。ポンプ機能の低下により、体がむくんだり、夜間の呼吸困難が生じたりといった症状が出現します。

一般向けの定義

心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です

心不全の症状

心不全では、心臓が全身に血液を送り出せないことによる低心拍出の症状と、送り出せない血液がからだに溜まるうっ血の症状がみられます。

心不全の症状が悪化した時の対応

これらの症状が悪化の赤信号として知られており緊急受診が必要です。ただし、「咳」や「痰」が最初の症状で風邪と間違われるような場合もあり、心不全は早期発見・早期介入が大切であり軽微な症状であっても我慢せずに早めの受診が必要です。

心不全が増悪する原因

心不全を悪くする原因には、いろいろありますが患者さん自身が気をつけることによって心不全の悪化を予防できることがあります。

心不全の原因の治療

心不全はすべての心疾患の終焉像であり、治療の原則として、心臓の働きを低下させた原因をはっきりさせ、その原因となる病気を治療することが重要となります。心不全の原因となる疾患が以下のような場合には、それぞれに応じた治療が必要です。

虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)

心臓の筋肉に栄養を供給している冠動脈という心臓表面の血管が狭窄や閉塞している場合には、カテーテルで狭窄を拡張したり、バイパス手術が必要になります。

弁膜症

心臓の内部にある弁の異常が原因で心不全になっている場合には、その弁膜症を手術で治療する必要があります。これまでは胸を開ける外科手術が唯一の選択肢でしたが、大動脈弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症という疾患の場合には、カテーテル治療が可能なことがあります。学会から認可された限定施設のみで可能な治療ですが、当院においては大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)や僧帽弁閉鎖不全症に対するMitraClip(マイトラクリップ)といった最先端の治療を行うことが可能です。

経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)で実際に使用する生体弁

バルーン拡張型弁のイメージ図

[バルーン拡張型弁]

自己拡張型弁の画像

[自己拡張型弁]

僧帽弁接合不全修復システム MitraClip

クリップで弁尖を把持している様子のイメージ図

[クリップで弁尖を把持している様子]
<アボット バスキュラー ジャパンより提供>

不整脈

頻脈が原因で心不全が生じている場合には、脈拍を落とす薬剤や、カテーテルで頻脈の原因となる不整脈を根治するアブレーション治療が必要です。

心室同期障害(左脚ブロックなど)

心臓の中でも最も重要な左心室は、すべての筋肉が同時に協調して収縮することで効率よく血液を拍出します。しかし左心室を動かす電気刺激が部位によってタイミングがずれるような状態(左脚ブロックなど)では、左心室のポンプ機能が低下します。このような病気の場合には、特殊なペースメーカーを植え込んで左心室全体を協調して収縮させる心臓再同期療法(CRT)を行うことで心機能の改善が期待されます。

両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)本体

クリップで弁尖を把持している様子のイメージ図

<日本メドトロニック社より提供>

すべての心不全で共通の治療

心不全の治療の原則は上記で述べた原因に対する治療ですが、心不全の原因にかかわらず必要となる治療があります。まずは薬物療法で、これには心臓を保護する薬を使用したり、過剰に貯留した水分を尿として排泄する利尿剤があります。また、高血圧、糖尿病、脂質異常症は、心不全患者さんの多くに合併する病気であり、心臓を取り巻く環境に悪影響を及ぼすため、これらのコントロールも非常に重要です。他に以下のような特殊な治療を当院では導入しています。

心臓リハビリテーション

心不全の重症度に合わせた運動療法は、運動能力の向上につながるとされ、当院では積極的に外来心臓リハビリを施行し成果をあげています。

外来心不全点滴

あらゆる治療を行っても心不全のコントロールが不安定であり、入院と退院を繰り返すような場合には、独自に開発した外来にて定期的に心不全治療用の点滴を行うシステムを用いることで、入院の回数が減少するようになりました。

心不全の経過について

症状が突然出現した場合を「急性心不全」、全身状態が落ち着いてきた段階で「慢性心不全」と呼びます。「急性心不全」の患者さんは、基本的に入院の適応となり、「慢性心不全」の患者さんは、外来への定期的な受診が必要です。この「急性」と「慢性」を繰り返し、徐々に悪化していくことが、心不全の特徴となります。がんのように、早期がん、末期がんといったステージングが難しく、余命の予測は困難でありますが、心不全で入院したことのある人は平均で5年間に約半数の方が亡くなっており、大腸がんの方が亡くなる率とほぼ同等とされています。

<日本心不全学会ホームページより一部引用>

当院での心不全に対する取り組み

心不全の原因は多岐にわたり、状態も多彩です。そのため、当院では佐藤幸人科長を中心に、医師と看護師・管理栄養士・理学療法士・薬剤師との間で週1回多職種心不全カンファレンスでの綿密な話し合いを行い、治療方針を相談しております。例えば、筋力低下がある患者さんには、心臓リハビリテーションに定期的に参加いただき、栄養状態が悪い方には、適宜栄養指導を行っております。また、当院には慢性心不全認定看護師2名が在籍し、退院後の不安や生活についての相談には看護師に多くの役割を担っていただいています。

心臓の機能が低下した患者様の多くは、心臓の働きがすぐに元通りになることは少なく、心臓との長いお付き合いになります。しかし、心臓の働きがすぐに元に戻らなくても、原因を突き止めて原因に応じて治療を行い、しっかり通院して薬を飲み、生活習慣に気をつければ元気に長生きすることも可能です。そのためには患者さまと医師とが良好な関係を築き、心不全の治療を継続することが大事になります。

当院での心不全多職種カンファレンスの様子の写真

[当院での心不全多職種カンファレンスの様子]

自己拡張型弁の画像

[終末期を迎えた心不全患者のケアについてチームで話し合う佐藤幸人さんら(兵庫県立尼崎総合医療センター)]
<2018.09 共同通信の取材記事より引用>