輸血は必要?
心室中隔欠損の手術は、先天性心疾患の手術で人工心肺を使用するものとしては比較的短時間ですが、そうはいってもやはり心臓の手術です。1歳未満で手術が必要となるお子さんの場合は、必ずと言っていいほど輸血は必要になります。
輸血の合併症として、
- B型肝炎、C型肝炎など、何らかの感染症にかかること
- 他人の血液と自分の血液との間でアレルギー反応が起こったりすること
などが挙げられます。
いずれも、献血された血液の保管や処理の技術の向上により、その頻度や程度は大きく改善されてきていますが、完全にそのリスクをゼロにはできません。このことから、できれば輸血を避けたい、と考えておられる方もおられます。また、輸血は、赤血球のみ、血小板のみなど、成分ごとに分かれているので、複数の成分が必要な場合はそれだけ投与する数が増え、その分合併症のリスクは上がります。
1歳を超えてくると、状況によっては、なんとか輸血なしで手術を終えられる、いわゆる「無輸血手術」ができる可能性が出てきます。年齢が上がるに従って、その可能性は上がっていきます。しかし、どれだけ年齢が上がっても、手術が終わった直後は輸血が必要かどうかギリギリの貧血状態になります。回復するには週単位の期間が必要になりますし、その間は息切れがしやすかったり、疲れやすかったりと、貧血の症状が出てきます。無輸血で手術を行うことで、最初に述べたような輸血に伴う合併症は避けられますが、ただでさえしんどい手術後に貧血のしんどさも加わることになります。
自己血貯血とは?
少しでも安全に無輸血手術ができるようにするため、当院では「自己血貯血」を行っています。自己血貯血とは、手術の前に予め自分の血液、「自己血」を貯めておくことを言います。貯めておいた自己血を手術のときに投与することで、自分の血液のみで手術を行えることになり、無輸血手術を達成することができます。
自己血貯血はある程度の期間(およそ3週間程度)をかけて少しずつ行うので、手術にはほとんど貧血がない状態で臨むことができ、手術で出血した分は自分の血液で補えるので、手術直後にも貧血はほとんど見られず、術後は速やかに回復することができます。これが自己血貯血の最大のメリットです。さらに、自分の血液を投与するので、アレルギー反応が起こることはまずありません。
感染症に関しては、自己血貯血に使用期限を設けることで、可能性を低く抑えています。また、自己血は成分ごとに分けることはせず、採取したそのままを投与するので、各種成分も均等に補うことができます。2005年1月から2021年5月までで、計198人のお子さん(18歳以下)に自己血貯血で心室中隔欠損の手術を行っており、99%以上で無輸血手術を完遂しています。
一方で、自己血貯血にはデメリットもあります。自己血を採取する際には、脱水を防ぐため、同時に同量の点滴を行いますが、やはり完全な血液の代わりにはなりません。貯血を行った日や翌日くらいまでは、貧血の症状が出ることがあります。少しでも貧血の症状を抑えるため、また次回の貯血までに貧血を改善させるため、鉄剤の内服をしていただいています。また、貯血の際の点滴にも鉄剤を混ぜ、最後に造血剤の注射も行っています。これにより、ほとんどのお子さんでは貯血のたびに貧血が進むということはなく、計画通りの貯血ができています。
また、貯血が一度始まると、手術を終えるまで、その間の体調管理はいつも以上に気を配っていただく必要があります。体調不良があると、予定の日に貯血ができず、十分な量の貯血ができない可能性があります。また、上で述べたように、自己血貯血には使用期限を設けています。具体的には、採取した日から35日間を期限としています。体調不良のために手術が延期になると、がんばって採取した自己血が期限切れになってしまう恐れがあります。
そして何よりの負担は、お子さんの処置の回数が増え、その分注射、点滴という「痛い、怖い」手技が増えてしまうことです。年長のお子さんなら、痛みや恐怖も我慢することができるかもしれませんが、幼いお子さんでは、耐えきれずに暴れてしまうこともしばしばあります。そのような場合には、安全のために体を押さえたり、タオルにくるんだりして処置をすることもあります。
そんなときに、恐怖をやわらげたり、お子さん自身でがんばる力を引き出したりするために、「子ども療養支援士」の協力を得ています(こども家族支援室、あまがさきだより2020/12号)。
縫いぐるみなどを用いて
医療行為についてお子さん自身に
理解していただきます
基本的には、他人とのコミュニケーションが取れる3歳以上のお子さんを対象としていますが、貯血の処置の前に、遊びの中で処置の内容をお子さんなりに理解し、ゲームなども用いながら、ただの「痛い、怖い」処置から、「怖かったけどがんばれた!」達成感を経験できる処置にできればと考えています。
また、子ども療養支援士の関わりは、自己血貯血だけでなく、その後の手術入院にも継続して行っておりますので、引き続き親御さん、お子さんの支えになればと考えています。
誰でも貯血できるの?どうやってやるの?
貯血の対象は、体重が10kg以上あり、主治医の判断で病状が安定しており貯血の手技と貧血による負担による影響が少ないお子さんに限定しています。
お子さんの性格にもよりますが、未就学児の場合には、安全面を考慮して日帰り入院としています。小学生以上の場合には、外来点滴・処置室で行うことも可能です。
がんばるために必要な好きなおもちゃや、ごほうびのおやつなども持参していただいて構いません。
全体のスケジュールとしては、週1回の自己血貯血を3週続けて行い(金曜日、患者さんが集中する夏休みシーズンは水曜日も可)、3回目の貯血の翌週あるいは翌々週に手術(月曜日か木曜日)を計画します。1回の貯血では、自己血貯血用の針と、点滴用の針との2本を留置する必要があります。点滴用の針は手の甲への留置が基本です。自己血貯血用の針は、通常の小児の点滴の針よりも1つ太いもの(一般成人と同じサイズ)を使用し、肘の内側、あるいは足首に留置します。
スムーズに進めばそれぞれ1回ずつですが、お子さんによっては針を確実に血管内に留置するのが難しいこともあり、複数回の手技を要することがあります。1回の貯血に要する時間は、スムーズに進めば約20〜30分ですが、手技が難しい場合にはそれ以上に時間がかかることもあります。点滴用の針から、鉄剤を混ぜた水分の点滴を行いながら、貯血用の針から血液を必要な分採取します。1回の採血量は、体重1kgあたり10mL(15kgのお子さんであれば150mL)を目安に、貧血の程度を見ながら増減しています。
自己血貯血は、あくまで無輸血手術を達成するための手段であり、なによりも安全に手術を行うことが大切です。
当院から自己血貯血を強制することはありませんし、自己血貯血を行っても、万が一輸血が必要となった場合には、輸血をさせていただくことがあります。
心室中隔欠損に対して手術が必要になり、自己血貯血が可能なお子さんの場合には、メリット、デメリットをご理解いただいた上で、自己血貯血をするかどうか決めていただけます。
お子さんに自己血貯血ができるのか、もっと詳しい話が聞きたい、などのご要望がありましたら、直接主治医または担当医に遠慮なくお声がけください。または、メールでのお問い合わせも受け付けております。amacvs@gmail.comまで、お気軽にご連絡ください。
質問・お問い合わせ
メールアドレス:amacvs@gmail.com