心室中隔欠損手術の入院期間はどのくらい?

入院から退院までの経過は?

心室中隔欠損に伴う症状で手術前に入院での治療が必要な場合を除いて、基本的には手術前日に入院していただきます。

手術後はPICU(小児集中治療室;Pediatric Intensive Care Unit)に入室します。PICUに専従している小児救急集中治療科と合同で、小児循環器内科とも協力しながら治療にあたります。

心臓の大きな手術の後ですので、呼吸の状態、心臓の状態を特に注意しながら、全身状態を整えます。病状が安定すれば、PICUから小児科の病棟へ移動します。

小児用一般病棟では、小児循環器内科の主導で内服薬の調整や食事状況の改善などを経過観察していきます。心臓血管外科では、手術の傷と、手術の際に挿入した排液の管(ドレーンといいます)の管理を中心に行います。

手術の際の傷は、一般的に手術から1週間以内程度で保護が不要な状態に治癒します。順調に経過していれば、ちょうどこの傷が治る頃には内服薬の調整が落ち着いており、食事も元気に食べられるようになり、点滴類や手術で入った管も不要になってきます。傷に大きな問題がなければ、最後に超音波検査や血液検査などで心臓を中心に全身状態に問題がないことを確認し、退院となります。

入院期間は?

入院期間は10日〜2週間程度が標準で、最短では7日で退院できることもあります。2019年10月から2021年5月まで、心室中隔欠損で手術を受けたお子さんのICU入室期間・全入院期間の平均はそれぞれ、1歳未満だと4.6日・11.6日、1歳以上では2.0日・9.1日となっています。年齢別にすると下の表のようになっています。

1歳未満で手術が必要なお子さんは、手術前に症状があることが多いことと、手術の影響が抜けるのに少し時間がかかることが多いので、入院期間は少し長くなる傾向にあります。特に生後2〜3か月までの早い時期に手術が必要になるお子さんの場合は、心室中隔欠損を閉鎖した後、手術の影響や、術前の肺高血圧(「心室中隔欠損の症状、手術はどんなもの?」)の影響で呼吸状態が悪くなるリスクがあります。

このような場合は、呼吸の状態が安定するまでPICUでの管理が必要になり、PICUに入室している期間が長くなることがあります。

手術という体へのストレスの影響も、手術による症状の改善の効果も非常に大きく、日々お子さんの状況はダイナミックに変化します。その変化によって、見通しが日々変動しますので、その都度ご説明させていただきます。

無事退院。その後は?

心臓の状態に関しては、小児循環器内科で経過観察を行っていきます。手術直後は1〜2週間おきの外来通院が必要ですが、徐々に間隔は長くなっていき、半年〜1年に1回程度になっていきます。適切な時期に手術が行えれば、運動制限が必要になることはほとんどありません。

術後の合併症として注意しなければならないことは大きく

  • 遺残短絡
  • 不整脈

であると言われています。

遺残短絡

1つ目は「遺残短絡」です。手術は心室中隔欠損をふさいで、穴を通る血流をなくすことが目的ですが、ふさぐためにはゴアテックスのパッチを、針を使って縫いつけます。針の穴は残るので、これが「漏れが残る」形になることがあります。また、心室中隔欠損の周囲には重要な組織がいくつかあり、これらを傷つけないように注意する必要があります。その結果として穴をふさぎきれず、穴を通る血流が残って「漏れが残る」ことがあります。漏れが少量であれば経過観察で自然に消失することが多いですが、量が多い場合には再手術が必要となることがあります。

不整脈

2つ目は「不整脈」です。心室中隔欠損の周囲には、刺激伝導系といって、心臓が動くリズムの司令が通る経路があります。この経路は肉眼的に確認することができず、穴をふさぐための糸や針が刺激伝導系を傷つけてしまうことがあります。重篤な場合は、司令が全く通れなくなり、「房室ブロック」という、脈が遅くなる不整脈を起こすことがあります。重篤な場合は、ペースメーカーの植え込みを行う必要があります。どちらの合併症も、術後入院中に判明することが多いですが、追加の治療が必要かどうかは外来通院に移ってから判断することもあります。


手術の傷は、体質により、ほとんど目立たなくなるお子さんと、ケロイドのように目立ってしまうお子さんがおられます。少しでも傷が目立たなくなるように、テープで覆う治療方法もあります。より専門的な治療をご希望の場合は、形成外科へ紹介することも可能です。

手術の後、日常生活で気をつけることは、傷をきれいに保つことと、胸への強い負荷を避けることです。最速で退院となる1週間程度では、まだ治りたてで、十分な強度があるとは言えません。 手術の後1か月は、可能な限りシャワーのみで浴槽への入浴は避けることをお願いしています。1か月間問題がなければ、自宅での入浴を再開し、その1か月後くらいを目処にプールや温泉なども許可するようにしています。

また、手術の際には、胸骨という胸の中央にある骨を切って手術をしています。手術用の太い糸や針金を使って固定していますが、骨がくっついて治るまでには2〜3か月かかります。腕や足の骨折のように、レントゲンを撮影してもなかなか骨がくっついたかどうかを判断するのが難しいので、2〜3か月の間は、鉄棒などにぶら下がったり、重いリュック・ランドセルを背負ったり、胸に強い衝撃が加わったりするようなことは避けていただくようにしています。

学校や幼稚園、保育園への通学・通園は、上記のような傷や骨の治りに関する注意点を守っていただければ、退院後すぐにでも可能です。ただ、退院直後は、短期間の入院であっても体力の低下が見られることがあるので、お子さんの体調と相談しながら、午前だけ、午後だけの通学・通園から再開したり、数日〜1週間ほどは自宅療養してから登校・登園したり、親御さんごとに調整しておられます。

当院では入院が決まりましたらPFM(Patient Flow Management)という部署で看護師による入院前面談を行っております。ここで専属の看護師から入院・手術の流れを詳しくご説明しています。

私たちは小児科、心臓外科に先天性心疾患専門チームがあり、専門的な診療を行っています。疑問点がありましたら、お尋ねください。また、メールでのご相談も受け付けております(メールアドレス:amacvs@gmail.com)。

ICU入室期間、入院期間一覧

<1歳未満(20例)>

ICU入室期間(入室日、退室日を1日と数える)
(日) 3 4 5 6 7 8 9 ≧10
(人) 7 3 6 1 2 0 1 0
入院期間(入院日、退院日を1日と数える)
(日) 9 10 11 12 13 14 15 ≧16
(人) 2 8 4 1 1 1 1 2

※うち、自己血貯血0例。小切開1例。

<1歳以上(9例)>

ICU入室期間(入室日、退室日を1日と数える)
(日) 2 ≧3
(人) 9 0
入院期間(入院日、退院日を1日と数える)
(日) 8 9 10 ≧11
(人) 2 4 3 0

※うち、自己血貯血6例。小切開9例。

<6か月以下(15例)>

ICU入室期間(入室日、退室日を1日と数える)
(日) 3 4 5 6 7 8 9 ≧10
(人) 3 3 5 1 2 0 1 0
入院期間(入院日、退院日を1日と数える)
(日) 9 10 11 12 13 14 15 ≧16
(人) 0 6 4 1 1 0 1 2

<7か月以上(5例、うち小切開1例)>

ICU入室期間(入室日、退室日を1日と数える)
(日) 3 4 5 6 7 8 9 ≧10
(人) 4 0 1 0 0 0 0 0
入院期間(入院日、退院日を1日と数える)
(日) 9 10 11 12 13 14 15 ≧16
(人) 2 2 0 0 0 1 0 0